ニュースレター第5弾を公開します
【テーマ】日本のロケット開発と宇宙輸送経済 ⼋雲サロン第401回(2019.11.13)
【ゲスト】北川幸樹氏(科12期) JAXA
●お話の概要報告
今回の講師北川さんは科技大出身で、博士課程終了後民間企業でジェットエンジン開発を担当された後、JAXAにて現職のロケットエンジン開発に従事されている。過去のサロンでも数少ない宇宙開発の現状やピジネスについて、JAXAとは、ロケットとは、また、宇宙輸送経済という3つの副題に分けてお話し頂いた。聴講前から宇宙への魅力や様々な想像が掻き立てられた。
1. JAXAとは
世界では、米国(NASA)、ロシア、欧州宇宙機関(ESA)、中国、インド、カナダなどの諸国や団体が科学技術や産業、軍事運用も目的として字宙開発組織を運営している。
日本での宇宙開発は宇宙開発研究機構(JAXA)が宇宙の平和的利用を基本理念とし担っている。JAXAは、東大の宇宙科学研究所(SAS)、宇宙開発事業団(NASDA)、航空宇宙技術研究所(NAL)が統合・改組された内閣府・総務省・文科省・経産省が共同所管する国立研究開発法人である。
種々施設や駐在所は全国や海外に広く置かれるが、主要施設として、本社は調布市、宇宙科学研究所メインキャンパスとして北川さんが勤務する相模原キャンパス、筑波宇宙センター、射場としては種子島宇宙センターと鹿児島の内之浦宇宙空間観測所、実験・開発施設として能代ロケット実験場と角田宇宙センターがある。
航空・宇宙業界を対比すると、航空業界の市場規模は空港運営と物流サービスなどの航空会社規模として1兆5千億円、航空機メーカーでは1兆1千億円とされる。なお、JAXAは航空機メーカーに対し環境にやさしいエンジンや極超音速機開発などの支援をしている。一方、宇宙開発業界の規模は機器メーカー、宇宙利用サーピス、産業ユーザー、関連民生機器製造・サーピスで2千5百億円規模である。
国は宇宙開発事業を推進するが、JAXAはその実行部隊であり、専門機関として国が主導すべき最先端の学術、国民の安全安心、国際協力、産業促進、技術革新などについて提言を行う機関、また、未知の分野に挑み未開発技術を実現させ日本の技術力向上を図る機関でもある。
JAXAの活動をまとめると、宇宙輸送(ロケット)の開発・運用、人工衛星による宇宙利用、宇宙科学研究・探査、宇宙有人活動などに集約される。
2.ロケットとは
ロケットの目的は、人工衛星や探査機や人を宇宙軌道に乗せること、また、観測器を超高空へ運ぶことにある。
打ち上げられた人工衛星や探査機の例としてジオスペース探査衛星あらせ、気象変動観測衛星しきさい、小惑星探査機はやぶさ2、惑星分光観測衛星ひさき、準天頂衛星みちびき、などがある。
ロケットは、初速度が7.9km/s(第一宇宙速度)で地球周回衛星軌道に入ることが出来る。地球脱出速度、さらに太腸脱出速度はさらに大きくなる。ロケットの推進原理は風船と同様、一方から噴射される燃焼ガスの反作用で推力を得る。
ロケットエンジンの特徴はジェットエンジンと異なり推進剤として燃料と酸化剤を搭載しており、それらを短時間で燃焼させることにある。燃焼ガスを末細末広ノズルで絞り、拡大し、音速、超音速を生み出す。より大きな推力を得るため、エンジンをクラスター化するなどの工夫がなされている。また、機体を切りはなしていくことで機体の重量を軽くして、より加速するために、多くの場合多段式としている。
ロケットの種類としてはイプシロンロケットのような固体燃料ロケットとH3ロケットのような液体燃料ロケットがある。イプシロンロケットの開発理念は、打ち上げの仕組みを簡素化し宇宙への敷居を下げ宇宙利用の裾野を広げることにある。M-Vとイプシロンの打ち上げを比較すると、管制室の人数が100人程度数から数名、射場作業が42日から7日程度、衛星最終アクセス時間は9時間から3時間程度へと大幅な改善を得ている。2013年9月、イプシロンロケット試験機が内之浦から打上げられた。
その後、打ち上げ能力増強、衛星搭載スペース拡大を目的として強化型イプシロンロケットが開発された。強化型では、第2段目の主推進モーターを径で22mから2.5m、最大推力を約35tfから約40tf、500km太陽同軌道投入能力を450kgから590kgヘと大型化した。このように強化された強化型イプシロンロケットは2013年から3基打ち上げられている。強化型イプシロンロケットの3号機目にあたる、イプシロンロケット4号機は、小型実証衛星1号機1基、超小型衛星3基、キュープサット3基を搭載し2019年1月18日、内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられ成功した。
小型実証衛星1号機は、]AXAが初めてベンチャー企業に開発・製造・運用を委託した宇宙システムの基幹的部品や新規技術の軌道上実証実験用衛星である。超小型衛星は50kg程度、キュープサットは数kgの衛星で、大学や民間企業が観測や技術実証を実施している。
固体ロケット燃料と液体ロケット燃料は爆発のリスクの高いことから、固体燃料と液体酸化剤を組み合わせたハイプリッドロケットが提案されてきた。固体・液体ロケットとハイプリッドロケットの爆発事例を比べると固体・液体ロケットでは事故が発生した際、爆発し機体は粉々になるが、ハイプリッドロケットは爆発せずにロケットは残存する。このため、有人打上げ機に適している。
ハイプリッドロケットは非爆発性推進系で、基本構造や燃焼方式に技術革新を含む新しいロケットシステムであり、超小型衛星打上げ機(クラスターロケット)、高機能観測ロケット(一定高度観測など)、空中発射方式の衛星打ち上げ機、能動的宇宙デプリ回収機、火星上打上げ機、キックステージ、衛星/・探査機スラスター、有人打上げ機などでの応用が期待される。
ハイプリッドの主な特徴として、非爆発性で安全性が高い、排気ガスに有害物質を含まず環境への負荷が小さい、理論的性能(比推力)が高くスロットリングや再着火可能、低コストなどが挙げられる。主な課題は、低燃焼効率、低燃料後退速度、燃料と酸化剤の割合を最適にするのが難しいことである。この問題は、A-SOFT(強度可変酸化剤流旋回型)ハイプリッドロケットで解決される。A-SOFTは、酸化剤インジェクターを2系統有し、接線流と軸流それぞれの流量を独立に制御し、推力と燃料/酸素割合をコントロールすることができる。
北川さんが、2020年代にはA-SOFTエンジンを確立し、ステップを踏んで大きなロケットを開発し、40年代には有人ロケットや観光ロケットを実現することを目指している。
3.宇宙輸送経済
聞きなれない用語であるが宇宙ビジネスを代表する響きがある。
世界の宇宙産業市場は30兆円、内訳は、衛星利用サーピス14.5兆円(48%)、地上設備13.5兆円(45%)、衛星製造1.7兆円(6%)、打ち上げ5,200億円(2%)。2000年代までは衛星が大型化されてきたが、開発費増大、期限延長、失敗リスク増大などにより小型化の傾向へと推移している。特に超小型衛星の打ち上げ数は、2010年頃は年間20個程度であったが2014年には140個位にまで急増しており、その後も増えている。
質量1トン当りの打ち上げ価格は、安価なもので数億円、多くは5~10億円規模、日本のイプシロンではそれ以上の規模と推定される。
打ち上げ価格は衛星側の希望(需要)とロケット側の希望(供給)の量曲線の均衡点にあるが、経済性確保には、ロケット側の再使用化での機体損失率の低減、安全性確保(フェイルセーフ化)、また、製造技術における三次元印刷法確立などについての技術革新が求められる。この技術革新を礎に世界では多くの宇宙ビジネスベンチャーが参画している。競争の激化により、さらなる技術革新が期待される。
【現役学生の感想】
システムデザイン学部 Y.Y.さん
実際に航空宇宙産業の現場に携わる経験をされている方のお話はととても興味深く、理系文系の垣根を越えて学べることが多いと感じた。JAXAをはじめ日本の航空宇宙産業に精通されているだけでなく、世界や将来の発展的な宇宙経済についてもお考えを知ることができ、宇宙でのビジネスが活発になりつつあるなか、今後の宇宙開発の展望がますます楽しみになってくる思いがあった。