ニュースレター第4弾を公開します
【テーマ】「海外&日本各地のごみ処理場を巡った『珍道中!ごみ紀行』五味泰平の泣き笑い人生」八雲サロン第421回(2023.6.14)
【ゲスト】小川泰生氏(都89法)
●お話の概要
小川さんの略歴を述べると、1965年、青森県八戸市に生まれ小学生時代以降は神奈川県で育った。大学卒業後、横浜市役所に就職し、仕事の傍ら、人生最大の趣味である旅行に励んだ。その結果JR線全線完乗、国内有人離島約400島上陸、全都道府県の最低標高山訪問、海外65カ国訪問などを達成した。本書は、就職して最初の職場がごみ焼却工場だったことがきっかけで、「ごみ」がライフワークになった結果、ごみのリサイクル問題探求と自己満足の集大成だと思っているとのことである。
ニッポン放送、上柳昌彦アナウンサーによる「あさぼらけ あけの語りびと」(2023年1月18日放送)では、本書と五味泰平こと小川さんが取り上げられたので以下に紹介する。
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。「不景気になると公務員人気が高まる」と言われていますが、2021年度は、心の不調で1ヵ月以上の病気休暇を取ったか、休臓した地方公務員が全国で3万8000人にのぼったことが、総務省の調査でわかりました。その理由の多くが「職場の対人関係」だったそうです。五味泰平さんも、去年(2022年)の春に市役所を早期退職。そして、ずっと念願だった本をこのほど出版しました。タイトルは「珍道中!ごみ紀行」。本の帯には「全国、そして世界各地のごみ処理場を巡った世にも珍妙な旅行記!」とあります。
「五味」さんが「ごみ処理場」を巡る旅……少しできすぎのように思えたところ、「五味泰平」という名前はペンネームだそうです。いろいろと大人の事情があり、本書で実名は公表されていません。昭和40年、青森県八戸市に生まれた五味泰平さんは、現在57歳。子どものころから鉄道旅行が大好きで、いわゆる「乗り鉄」です。鉄道会社へ就職したいと考えていましたが、応募した全ての会社の面接で落ち、大学卒業後は唯一内定をもらえた某市役所に入庁します。
研修を終えて配属となった先が、何と「ごみ焼却工場」でした。電車とパスを乗り継ぎ、1時間半かけて郊外のごみ焼却工場へ通勤する日々。そこでは100人ほどの職員が働き、そのうち事務職は5人。大卒の新人は五味さんだけでした。
ある日、工場内を見て歩いていると、気付かぬうちに立ち入り禁止エリアに入り込んでしまいます。「こらぁ!お前、どこを歩いているんだぁ!」。工場には「ヌシ」のようなベテランの職員がいて、「そこは歩くところではない!」と怒鳴りつけられました。その声に縮み上がってしまった五味さん。「そのときは正直な気持ち、「何でごみ焼却工場なの?」とがっかりしましたね。3年ほど経てば他の部署へ異動になるから、我慢して働こうと思いました」
暗く冴えない表情で働いていたため、職場では変わり者扱いされてしまいます。
でも、捨てる神あれば拾う神あり。そんな五味さんに優しく声をかけてくれる職員もいて、「これから埋立処分場へ行くけれど、君も一緒に行くか?」とか、「帰りに軽く飲もう」と誘ってくれたり、悩みを聞いてくれたりしました。
「なかでも面白かったのが、「煙突の上に登ってみないか?」と誘われて、100メートル以上もあるごみ焼却工場の煙突の上に登ったときでしたね。そういう経験は誰にでもできるわけではないですし、「ごみ処理場って何だか面白そうだぞ」と思うようになったんです」。
一旦、好奇心に火がつくと、研究熱心な五味さんはとことん勉強します。レポートを書いたり、研修会で発表したりして、人脈も増えていきました。休暇を利用して国内、さらには海外に足を伸ばし、プライペートでもごみ処理場を見て回るようになります。「ごみ処理施設は、ただ燃やすだけではなく、粉砕したり埋め立てたり、リサイクルもするし、排熱利用もします。知れば知るほど奥が深いんですよ。ごみを見ただけで、その国の文化や経済もわかります。日本は、ごみの量がバブル当時より減っているんです。リサイクル文化が高まっているのもありますが、残念ながらごみの量が大きく減っている最大の理由は、日本の経済力が落ちているからなんです」
5年間ごみ処理工場で働いた五味さんは、その後、土木部門の総務課や、税金を扱う部署へ異動します。しかし、ライフワークの「ごみ処理場を巡る旅」は続けていました。そんな五味さんが「ごみ紀行」を自費出版しようと思ったのは、去年の春。職場の上司からパワハラを受け続けた上に、親の病気が重くなり、介護の負担が大きくなったため、定年まであと4年を残して早期退職しました。
公務員時代は、職場の人間関係で悩むことが多かったそうです。そんなとき、気持ちを癒してくれたのが「旅行」でした。五味さんはこだわりの旅を続け、JRの全線をすべて乗る「JR全線完乗」や、国内の人が住む離島およそ400島に上陸。全都道府県の最も低い山に登頂したり、海外65カ国を訪問したり……。「生きる意味は旅をすること」だと言います。
「椎名誠さんや沢木耕太郎さん、宮脇俊三さんに憧れて、旅行の本を書くのが夢でした。いろいろ応募しても賞が取れず、こうなったら退職金をもとに本を出そうと思ったんです。なぜこの本にしたのかと言うと、33年の公務員生活を振り返ったときに、ずっとごみ問題のことを思い続けてきたからです」。
「珍道中!ごみ紀行」は、ごみ処理場を巡る旅だけではなく、ネパール、パラオ、ラオスなど、なかか行くことができない地域の旅行記でもあります。そして、五味泰平さんの泣き笑い人生も綴られています。
同様に、「廃棄物資源循環学会誌」(Vol.34No2 2023)に「五味泰平著:珍道中!ごみ紀行」について釜田陽介氏(味クボタ、水環境研究開発第一部)による書評が掲載されていますが上述の内容が網羅されているためここでは割愛します。
一言で「ごみ」といっても現時点では、地域や国々、経済状態、国民の意識など、様々な立場で様々に捉えられていることから、いかに環境保全や資源利用へとつなげることができるかを国民や世界の人々の意識につなげるかが重要であることを改めて認識させられた。
【現役学生の感想】
人文社会学部 T.Y.さん
私自身が小川さんが出身の八戸に住んだことがあり、かつ公務員志望であったためとても親近感を感じた。また、自分の仕事と趣味を重ね合わせ、本まで執筆する行動力にはとても感銘を受けた。「ごみ」という観点から街を見たことはなかったので、自分の住んでいる地域のゴミ問題やリサイクル事情などに関心を持とうと思った。